数年前、ドラマ「校閲ガール」が一躍人気となり、世の中に広く知られるようになった「校正・校閲」の仕事。文章と向き合う職人のようなイメージもあり、未経験者にとって敷居が高いと感じていませんか?
この記事では、印刷業界や出版業界を中心に、校正・校閲の仕事内容やキャリア、未経験・初心者から挑戦する方法について解説していきます。
校正と校閲の仕事内容は同じものだと思われがちですが、それぞれの役割には大きな違いがあります。
では、校正・校閲の仕事内容とその違いについても以下で詳しく解説していきます。
校正の仕事では、元の原稿と校正用に刷り上がった印刷物を比べ、誤字・脱字や印刷ミスがないかを一字一句確認することが主なミッションです。この作業を「突き合わせ」と呼びます。
印刷物に物差しをあてて赤字で修正を加えていく、文章を入念に見比べる作業です。誤字・脱字だけでなく、定められた表記ルールとの統一や、フォントや文字サイズもチェックし、赤字が印刷物からなくなるまで繰り返します。
そして、ようやく「校了」を迎え、本格的に印刷が開始されます。
校正の仕事は、ただ単に修正箇所を見ていくだけでなく、修正に伴って前後の文脈に齟齬が生じていないかまで細かく確認する必要があり、忍耐力と集中力が必要な仕事です。
ただし、色味やデザインに関してはDTPオペレーターやデザイナーという別の職種が編集を加えるので、この作業は校正の対応範囲外となります。
校閲の仕事は、文章の内容に関する事実関係や時代背景を調査したり、裏どりや数値の確認などを行ったりしながら、原稿と実情のズレを修正していくことが主なミッションです。
信頼できる文献をリサーチすること、的確なデータを参照することが必要で、記事のテーマに関する基礎知識も求められます。
校閲の仕事は文系のイメージがありますが、医療や宇宙などを扱う雑誌では専門的な知識が求められるため、理系学部出身の校閲者も多数います。
上記でも説明したように、簡単に言うと校正は「体裁」を、校閲は「内容」の検証を担当します。
まずは、校閲として事実関係の確認、次に校正として紙面の体裁の確認、という順番で行うことが通常です。校正・校閲の仕事は求められる役割が異なるため、校正と校閲を同時に進めるということはありません。
校正・校閲のどちらも、出版物が世の中に出る前の最後の関所となる仕事です。1つでもミスを見逃してしまうと読者から苦情が来るだけでなく、出版元や著者の信頼を失いかねません。それだけ大きな責任を背負いながら注意深く文章と向き合うのが校正・校閲という職種です。
校正・校閲の仕事内容がわかったところで、次は実際の求人を見ながら校正者・校閲者の年収とキャリアパスについて説明していきます。未経験者歓迎の求人もあるので、初心者だからと校正・校閲の仕事を諦める必要はありません。
しかし、そもそも「校正・校閲のみ」の採用は非常に少ないのが実情です。出版社や新聞社には専門の校正者・校閲者がいますが、多くの場合はライターや記者が校正・校閲を兼ねています。
以上のことも踏まえ、実際の求人票を見てみましょう。
雇用形態 | 派遣社員 |
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収入 | 時給1200円~ |
業務内容 | ガイドラインに従って、旅行パンフレットを校正いただくお仕事です。誤字・脱字のチェックや、掲載情報が正しいか、文字や写真の配置はないかを確認いただきます。 |
募集要件 | 【必須の経験・スキル】 ・Word、Excel、PowerPointなどOfficeソフトの基本操作 ・インターネットで、調べたい情報を的確に探す技能 【歓迎する経験・スキル】 ・校正業務の経験者 ・ライティング経験 |
未経験者の応募を歓迎している校正者・校閲者の求人例は以上の通りです。
専門知識のない未経験者・初心者でも取り組みやすいジャンルの媒体が中心です。上記の例の場合は、決められたガイドラインに従って赤入れを行う正確さに加え、日々変わる観光施設の最新情報にアクセスできるリサーチ力が求められます。
雇用形態 | 契約社員(正社員登用あり) |
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収入 | 時給1275~1575円 |
業務内容 | 新聞校閲として、ニュースの事実関係や言葉の誤用、誤字・脱字等を正していく仕事です。 記事、見出し、写真説明文にいたるまでくまなく目を通していきます。 |
募集要件 | 【必須の経験・スキル】 ・専短大卒以上 ・校正・校閲経験のある方 ・ITスキル・知識がある方または学ぶ意欲がある方 ・要Word・Excel(簡単な計算式が分かる程度)スキル ・社会人経験3年以上 【歓迎する経験・スキル】 ・出版社などでの校正・校閲経験 |
校正・校閲の経験者優遇の求人例は以上の通りです。
新聞・雑誌や小説などのコンテンツの重要性が高い印刷物は、誤字・脱字が許されないだけでなく、事実関係の確認が非常に重要になります。伴う責任が重い分、経験者が優遇される傾向にあるのでしょう。
校正者・校閲者の年収はいくらなのでしょうか?実際のところ、校正者・校閲者の年収は企業規模に左右される傾向にあります。大手新聞社・出版社は年収が高く、中小規模の企業では年収が下がってしまいます。
転職エージェントである「マイナビエージェント」によると、校正者(ライター・編集者・制作を含む)の平均年収は、20代で368万円、30代で469万円という結果が出ています。また、求人情報の検索サイトである「求人ボックス」によると、正社員雇用の校閲の平均年収は423万円です。
◇雇用形態別の平均年収◇
雇用形態 | 平均年収・時給 |
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正社員 | 年収423万円 |
契約社員 | 時給1649円 |
アルバイト・パート | 時給1052円 |
※出典:求人ボックス 給料ナビ「校閲の仕事の年収・時給・給料(求人統計データ)」2022.7.29
これらの結果から見ると。経験値や能力の高さにもよりますが、校正者・校閲者の平均年収はおよそ410万円~430万円ということがわかります。日本の平均年収が約433万円*なので、それと同じくらいの年収と考えてよいでしょう。
しかし、3大出版社(集英社・小学館・講談社)の校閲記者となると平均年収が1,000万円台に及びます。また、医学などの専門誌を扱う出版社でも年収が高くなる傾向にあります。
*:国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」より
校正者・校閲者のキャリアパスは以下の2つが考えられます。
以下で校正者・校閲者のキャリアパスについて詳しく解説します。
企業の校正・校閲部に入社し、経験を積むことが校正者・校閲者の最も一般的なキャリアパスです。校正の技術を上げることから始まり、校閲も問題なくできるようになれば、部下や外注スタッフの作業をとりまとめるマネジメント的な役割も求められるようになります。
また、校閲者として働ける場所は出版社・新聞社だけではありません。広告会社や編集プロダクション、また校正・校閲の専門会社など働き口は多様です。
雇用形態も正社員から契約社員、派遣社員やアルバイトとさまざまなので、自分のキャリアプランに応じてどのように働くかを決めることができます。
さらに、年収アップを望む場合は、前述したように大手出版社・新聞社への転職を視野に入れることが必要です。
フリーランスとして独立することも校正者・校閲者のキャリアパスの選択肢として考えられます。大手出版社を経てフリーランスとして独立する人もいれば、未経験からフリーランスの校正・校閲として活動を開始する人もいます。
出版業界では1年間を通して本の刊行時期に波があるため、校正・校閲の仕事も繁閑の差が出やすいのが特徴です。そのため、特に出版社にとってはこのムラに効率よく対応できるフリーランスの校正者・校閲者は不可欠な存在と言っても過言ではありません。
また、最近ではWeb記事を校正・校閲する仕事の需要も高まっています。web記事の校正・校閲は在宅で作業できるので、Webメディア校正・校閲の多くは外注のフリーランサーが手がけています。
報酬は記事単価1,000円~、または文字単価0.5円~などさまざまですが、Web記事は紙媒体に比べ単価が安い傾向にありますが、フリーランスとして独立する場合は、まずは仕事が豊富にあるWeb記事の校正・校閲に取り組んでみることをおすすめします。
前章では実際の求人をもとに、校正者・校閲者の年収やキャリアパスについて説明しました。では、いよいよここからは、未経験・初心者から校正者・校閲者になるためになる方法について解説していきます。
まず、未経験から校正者・校閲者の求人に応募するために準備すべきものは、履歴書と職務経歴書です。校正・校閲は他人の文章を正す仕事であり、注意深さが求められます。くれぐれも履歴書や職務経歴書に誤字脱字がないように気をつけましょう。「履歴書も満足に見直すことができない」と思われてしまうと、内定を獲得することはできません。
また、企業によっては時事問題などの筆記試験や、校正能力を見るための実務テストが課されることもあります。
校正作業はただ赤ペンで誤りを正すのではなく、ルールに基づいて修正作業を行うため、日頃から校正記号表を読み込み、記号に慣れておくことが大切です。
そのため、求人に応募する際は、校正記号などの校正・校閲の基礎知識をしっかり学んでから行動に移すのが理想的であると言えるでしょう。
これまでお伝えした通り、経験がなくても校正者・校閲者になることは不可能ではありません。未経験者・初心者が校正者・校閲者の仕事になるための具体的な方法としては、以下の3つが挙げられます。
では、それぞれの詳しい内容と、メリット・デメリットを以下で解説していきます。
「初心者から校正者・校閲者になりたい」と考えると、まず「専門学校やエディタースクールで必要な知識やスキルを身に付けたい」と思う方が多いかもしれません。
校正・校閲という仕事には体系化されたノウハウがあるため、きちんと基礎を押さえているかどうかはその後の実務に大きな影響をもたらします。そのため、基本的な知識や技術を学校で学ぶことは、校正者・校閲者を目指す人にとって非常に有意義だと言えるでしょう。
有名な専門学校としては「日本エディタースクール」があり、出身者にも現役の校正者・校閲者として活躍している人が多数います。
しかし、デメリットとしては受講期間が長いため、まとまった時間を確保しなければならないこと、高額な費用がかかってしまうことが挙げられます。専門学校に夜間コースがあると言っても、仕事を終えてから通い続けるためには強い意志が必要です。
また、通信講座では時間の融通は利きますが、一人での作業がメインとなります。そのため、周囲がどれくらいのスピードで校正・校閲を行えるのか、または実際の現場で求められるスピードを把握しないまま講座を修了してしまうことになるので、一長一短です。
料金 | 数十万円~ |
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期間 | 数ヶ月~1年 |
メリット | 基本的な知識やスキルが身につく、働きながら通える専門学校やスクールもある、通信講座もあるので融通が利きやすい、現役の校閲者とつながりが持てる |
デメリット | 受講期間が長い、費用が高額 |
クラウドソーシングを利用すれば、未経験でも仕事を受注することができます。クラウドソーシングは、インターネット上で不特定多数に向けて仕事の発注を依頼するサービスで、経験不問の案件が比較的よく見られます。
お金を稼ぎながら実務経験を積むことができるため、「自分の向き・不向きを見極めるためにも、まず校正・校閲の仕事をやってみたい」という方にぴったりです。
しかし、募集が少ない上に単価が安い案件が多いのがデメリットです。また、必ずしも専門学校のように体系的に教えてもらえるわけではないので、知識やスキルに関しては自分で学習しなければならないこともあります。
料金 | 無料 |
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期間 | 数日~ |
メリット | 副業で始められる、実務経験を積める |
デメリット | 募集が少ない、単価が安い、体系的な知識が身につかない場合がある |
未経験者が校正者・校閲者になるために、初心者歓迎の求人に応募して実務経験を積む方法もあります。実際の業務の中で経験を積み、かつ先輩社員から必要な知識や実践的なスキルを教えてもらえるため、校正者・校閲者になるための近道とも言えます。
しかし、そもそも未経験を歓迎する求人は少なく、「校正・校閲」に限るとさらに狭き門です。また、経験が問われない代わりに人柄や企業との相性が重視されるので、面接の対策が不可欠でしょう。
ライティング経験や特定分野の専門知識があれば選考に有利になるので、自分の強みをどう生かすことができるのかということを考えてから応募しましょう。
さらに、転職支援サービスを利用すると、求人の紹介だけでなく客観的なアドバイスもしてくれるのでおすすめです。ぜひ一度相談してみてください。
料金 | 無料 |
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期間 | 数ヶ月~数年 |
メリット | 収入を得ながら学ぶことができる、実務経験を積むことができる、その後のキャリアに有利 |
デメリット | 求人数が少ない、人物評価が重視される、強みや類似経験がないと内定が難しい |
未経験からでも校正者・校閲者を目指す方法はいくつか存在するため、決して不可能なことではありません。専門学校へ行って学んだり、未経験者歓迎の求人に応募したり、チャンスは自らつかみに行くことで、成功への道を切り拓くことができます。
しかし、Webist編集部では上記で紹介した方法ではなく、まずは求人媒体に登録して転職支援を受けることをおすすめします。転職のプロが求人を紹介してくれるので、未経験者歓迎の校正者・校閲者の求人を見逃すことがありません。
その上、事前に筆記試験や実務テストの有無についても教えてくれるので、余裕を持って対策することができます。キャリアに対する客観的なアドバイスを得るためにも、ぜひ転職支援サービスも積極的に活用してみてください。
校正・校閲の仕事には違いはありますが、どちらも文章と真剣に向き合う忍耐力と「間違いを見逃さない」責任感が求められる仕事です。しかし、その分やりがいも大きい仕事なので、夢を諦めず、自分に合った方法を見つけていくことをおすすめします。
まずは、転職支援サービスを上手く利用しながら、ぜひ校正者・校閲者になるために動き出してみましょう。